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人間の身勝手さをシニカルに描いた、イラストの美しい絵本です。くまはのんびりと暮らしていたのですが、冬眠中に洞穴の真上に人間が工場を建ててしまいます。冬眠から出てきたくまは、工場職長に見つかり、「とっとと しごとにつけ」と労働者に間違えられて怒られます。くまはこしを抜かすほど驚き、「あのう、すみませんが、ぼくは くまなんだけど」と言うも、「くまだと!ふざけるな!」と信じてくれません。
職長はくまのことを人事課長に、人事課長は副工場長に、副工場長は工場長に、工場長は社長にと、階層式に自分を人間と認めないくまのことを報告するのです。人間は職位が上がるにつれ、どんどんえらそうで横柄になっていきます。人事課長は「うすぎたない、ひげもそらない、なまけもの」とくまをよび、工場長は「きたない やつだ」とさらにきつく言い捨てます。一番えらい社長は、いつも用事が無くて暇で、社長の部屋には、くまの頭つき毛皮のカーペットが敷かれてあります。社長はくまを動物園とサーカスに連れて行って、本物のくまを見せようとします。そして動物園のくますらも、社長と車にのっているくまをくまと認めません。サーカスのくまも、観客席に座っているくまをくまと認めません。
いよいよあきらめたくまは言いなりになり、顔のまわりのひげをそって、工場ではたらく日々を過ごします。タイムカードをいれ、右も左も分からずに、ののしられながらも、しばらく働きます。でも木の葉が色づき冬が近づくにつれ、くまはだんだん眠くなります。ちゃんと働かないくまは、くびにされてしまいます。少しうれしいくまでしたが、モーテルにも泊めてもらえず、雪の中森に入ります。でも森の中でお気に入りの洞穴を目の前にしても、冬眠するすべを忘れており、のたれ死ぬのです。
モーテルでは、することがないくせに、いやに忙しそうなかっこうをしている男がでてきます。ここに出てくる人間たちは、みんな無機質で思いやりに欠けた自己中心的なイメージで描かれます。人間の社会に入り、くまは「大事なことを忘れてしまったらしいな」と思います。
イラストは写実的で、建築物なども正確に描かれ、漫画のように1ページにいくつかのコマで構成されています。イラストも文字も、丸い四角の枠に入っており、整然としていてきれいな一方、絵本のテーマと同様に無機質で人工的なイメージを与えます。
皮肉たっぷりのこの絵本は、大人向きの絵本といえます。子どもが読んだら、ネガティブになるだけで、漠然とした不安を覚えて、社会や仕事などに悪いイメージを持ってしまいそうです。しかし、大人にとっては、社会をある程度知っており冷静な視点で見ることができるので、イラストからお話まで、これほど痛快で読み応えがある絵本はありません。
 原書『Der Bär, der ein Bär bleiben wollte』の表紙画像
英語版→ 『The Bear Who Wanted to Stay a Bear』
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